はじめに
筆者は湯舟のお風呂が好きなのですが、浴槽は自動給湯ではなく、お湯張りの際に溢れさせてしまうことがあり、それならばと思ったのが作製の動機です。今回作製したお風呂ブザーは、仕組みが分かりやすいトランジスタによるダーリントン接続と、非安定マルチバイブレーターで構成しました。
ダーリントン接続について
ダーリントン接続(下図)は、ベース電流に2つのトランジスタの電流増幅率 hFE1とhFE2を掛け合わせた非常に大きなコレクタ電流を流すことができます。
コレクタ電流Icは、次式で表されます。つまり、電流増幅率hFEは、IbとIcの比を表します。
また、本器の作製に使用したNPNバイポーラ型トランジスタ 2SC1815 のhFEは、下の4つのランクに分類されます。本作品では、入手しやすいYランクを使用しました。
トランジスタ 1個の固定バイアス増幅(左下)と、ダーリントン接続(右下)の電流増幅率の違いをLEDの明るさで比較しました。ダーリントン接続は、僅かなベース電流でも非常に明るく点灯することが分かります。(図中の電流値は、hFE=180、ベース電圧=0.6Vでの参考値)
非安定マルチバイブレーターについて
非安定マルチバイブレーターは、コンデンサーの充放電によって2つのトランジスタが交互にオン/オフを繰り返します。このため、非安定(安定しない)マルチバイブレーターと呼ばれます。
下図は、動作の概略です。赤線は、電流の流れを示します。(最初の電源オンで、どちらのトランジスタがオンになるかは不定)
Tr1とTr2のオン/オフ時間Tと周期fは、R2とC1、R3とC2の時定数によって決まり、次式から求めることができます。
なお、R2=R3, C1=C2ではデューティが50%になり、周波数は次式になります。
実際に、R2=R3=10kΩ、C1=C2=100μFのデューティ50%の回路を組んで、P1とP2の波形をオシロスコープで観察しました。交互に均等なパルスを繰り返していることが分かります。また、周波数と周期は凡そ計算値どおりです。
結果
下は本器の回路図です。電極(センサー)が水を検知すると、非安定マルチバイブレーターを経由してダーリントン接続したトランジスタのベースに微小な電流が流れ、ブザーに大きなコレクタ電流が印加されます。非安定マルチバイブレーターによってベース電流のオン/オフが繰り返され、ブザーは間欠鳴動します。
下は本器の外観です。センサーにはモノラル・プラグを流用しました。これを吸盤に取り付け、浴槽の適当な位置に貼り付けます。また、回路基板や電池は市販の密閉容器に入れ、センサーも防水処置を施しました。
まとめ
本器のおかげで、お湯を溢れさせることも無くなり、快適なお風呂ライフを楽しんでいます。構成はシンプルですが、トランジスタのダーリントン接続による電流増幅と、非安定マルチバイブレータによる発振作用を組み合わせた実用例です。また、非安定マルチバイブレータの時定数CRを変えれば、各トランジスタのオン/オフ時間を変更できますので、お好みに調整してみて下さい。
以上